『寄生虫のはなし ―この素晴らしき,虫だらけの世界―』(朝倉書店)の書評を「土木技術 vol.76 No.11」に書きました。
本書は、国内外で活躍している寄生虫研究者が集結し、各人がテーマとしている寄生虫について、その魅力をわかりやく解説したものです。「研究者が集まって書いた」と聞くと、学術論文や専門書のような無機質で過度に難解な文章がイメージされるかもしれませんが、本書の語り口はとてもやさしいのが印象的。文章の端々からは著者の方々の寄生虫への深い愛情が感じられますし、熱い語り口に背中を押されて、やや専門的なことが書いてある部分もスルスルと読めてしまいます。グロテスクなのになぜか隅々まで見てしまう虫の写真の数々、「気持ち悪い」「怖い」といったイメージとはかけ離れたコミカルなイラストも、私たちの想像力をかき立ててくれます。
刺身をよく食べる人にとっては気になるアニサキス、古くは「鯛の九つ道具」として知られていたというタイノエ、なんと全人類の三分の一に寄生しているというトキソプラズマ、カタツムリの眼柄に入り込んでイモムシそっくりに脈動するロイコクロリディウム、カマキリやバッタを操って水に飛び込ませてしまうハリガネムシ、旧約聖書に「炎の蛇」として登場するメジナ虫、広く世界で健康問題を引き起こしている赤痢アメーバ、住血吸虫、エキノコックス、マラリア、トリパノソーマ……次々と紹介される寄生虫たちの個性的な生き様に、読者の好奇心は大いに刺激され続けることでしょう。これだけの種類の寄生虫がここまで読みやすく一冊にまとめられた本は、そうありません。
寄生虫は宿主の体という特殊な環境に適応するために、自らの姿形を変化させ、生活に工夫を凝らし、さまざまな戦略を実践しています。寄生虫の多様性の面白さと、そこに研究者がいかにして科学の光をあてたかという物語は、老若かかわらず楽しめます。
現役の研究者たちによって最新の知見と正確な情報が書かれているので、医療従事者、畜産・水産業関係者、教育関係者にとっては即役立つ実用書となります。一般の大人や大学生にとっては、寄生虫学の入り口を学ぶための格好の入門書です。巻末付録の「採集指南」は、好奇心旺盛な中学高校生の体験学習や自由研究にうってつけです。そこでは、身近な野山やスーパーの魚売り場に潜んでいる寄生虫の探し方、標本のつくり方、撮影方法などが、やさしく解説されています。この寄生虫採集を実際に行った子どもからは、きっと未来の生物学者や寄生虫学者が生まれるにちがいありません。
寄生虫の魅力ひいては生き物の魅力がぎっしりと詰まったこの一冊を、ぜひ読んでみてください。思わずまわりの人に話さずにはいられない――そんな知的興奮が得られるはずです。
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